Q:お品が続かないのは何故ですか...

A:
 うちあたりの楽器をみて、食材店のレトルト食品か何かと一緒に考えて頂いては一寸困ってしまいます。

 今、世界に供給される「楽器」の8割程度は中国が関与しています。関与というのは完成の最後の工程であるチューニング迄済ませて各々の発注者に送られるのはその中の7割程度であり、専らこれらは中国製として表記或いは表明されることがないからです。そのため、メイドインチャイナとされるものは、販売される楽器の6割程度に留まっています。そういう一大楽器産地である中国はこの世界では独り勝ちそのものの先進国です。しかし、どういう訳か自ずから発展途上を標榜しており、想像しうるありとあらゆる取引上の事件事故は日常茶飯事です。発注したものが出荷されない、勝手に仕上を変えられた、という初歩的なものはまあ当たり前ですが、受注条件の大幅変更例えばさっきは10個単位で請けたものを今は千個単位にせよというとか、完成払いだったのに前金を要求されたり、価格が倍になる、等、そういう事件は少なくとも月イチで起こります。そして、年に一度は出荷された楽器のヤマを当局に差し押さえられたりしますが、理由は「無許可で伐採された原木が材料である可能性」とか「軍需物資を使用して製作された」とか、得体の知れないものであるという事故に迄遭います。

当店も、そういう可能性をはらむ楽器を主に販売しています。それは、要するに他所よりずっと安い価格で良い楽器を仕上げてくれるからです。いいものを安くというアドバンテージに勝る何か他の理由が見つからないからです。

 そういう問題の為、楽器メーカーや販売店はいろいろ製品の安定性能、安定品質に対して必要以上に配慮しています。中国等外国において生産する体勢をとっている場合、大きなメーカーは常に代替製作者を確保し、ラインナップが突然落っこちないように努めます。うちのような小さな体勢の場合は、製作者個人と連絡を密にして、時に勇気づけ時に慰めというメンテナンスを心掛けますし、いきなり大口を求められても何とか当店の要望を聞いてもらうように頼む訳です。通用しないことも、ままありますが。

 バイオリン等弦楽器の場合、短くても3ヶ月近い工程が必要なので、小さなエラーが製品を左右することは案外ありません。但し素材的な違いは一切払拭出来ず、個体毎に多少音色が違うとか癖が違うのは止むを得ません。管楽器や打楽器はそれに比べると格段に早く出来ますが多くの人の手を必要としますからある時点迄は同じようなものが出来る筈ですが、仕上の段階、格別調律の段階では極特定の少人数に絞り込まれる為、その時の気分やら体調での違いが生じて来ます。当然、見た目の仕上がり等が変わってしまうことは認めざるを得ません。

 それらをある程度吸収する為、当店では出来る限りの調整調律を個体毎に心掛けます。それはある意味で「製造」の一部であり、見方によっては、そのものともとれることで、尤もらしくいうなら全部ウチ製といってしまわざるを得ぬものです。メーカー(というのはこの場合ブランド主のことですが)によってはそれを容認してくれています。そうして出来る限り、同じ頁の同じ場所に載っていたモデルを続けようとはしているのです。

 それでも、どうしようもないことが起きます。先の事件事故とか、製造者が事業を売り飛ばしたため取り引き出来なくなったならまだ普通です。中には、仲良くなってしまったが為にガンバッテかっこいい仕上にしてくれた!ら値段が上がった......ということもありますし、その製作者の取引通貨が「ユーロ」だったので急に相場が上がって大幅に値段が変わり同じモデルにしておくことが出来ない....こともあります。でもある程度は予測出来ます。全く予測不能なことも起こります。製作者は「演奏家」でもあったことを知らずにいたら、急に忙しくなって工房に居られなくなった....為に発注が通用しなくなったりもします。

 元々、バイオリン等弦楽器は、モデル的安定性を精々見かけの色や部品の佇まい程度でしかつくれません。どんなにガンバッテもおんなじ音色の楽器は二度と現れませんので、本来は個体毎を評価すべきなのです。手作りの部分が殆どですし、それ故に気分等も影響します。大規模な産業用機械を使わなくても出来る工芸品であることも手伝い、益々安定長期モデルの設定が難しくなります。

 そんな訳で、余りにも手段に詰り、一個づつ紹介したり残り個数を表示したりしています。一個づつのものはそれだけで、個数表示のあるものはあるだけで、取り敢えず終りとなることを示しています。

どこの何型、よりも、わたしの楽器、と出会って下さい。 

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