Q:弦楽器のフィッティングパーツはどんなものがおすすめですか

A:
 バイオリンやビオラには、楽器を固定する為にあごで押さえる為の装具、乃ちチンレスト(あご当て)がその姿の一部を隠すように着けられ、普通その状態で目にします。他に、弦の固定の為の緒止め(テイルピース)、弦を巻く為の糸巻き(ペグ)を俗にフィッティングといっています。無理していうなら、指板(フィンガーボード)や上駒(ナット)、下駒(ブリッジといいますが普通「駒」といってしまっています)、サウンドポスト(魂柱)もそういう場合があります。明らかに本体の箱とは違う脱着可能な部品のことだと考えて良いでしょう。

 そのうち、音質を左右する可能性があるのは主にブリッジです。物理的に弦の振動を箱に伝えているものなのでかなりこわごわ扱っているのですが、このブランドや材質でそれ程大幅に音が変わるものでもありません。高いものを使えば必ず良い音になるという訳ではないと考える方が平和です。しかし、安っぽいものも高価なものもあるその違いは、そのものの強度でしょう。これは交換等で常に加工している立場なら誰でも分かると思います。高いものは緻密で硬い厳選された材料が与えられているのです。ブリッジは振動を殺す(ミュートしてしまう)ことを嫌い極力薄く軽く磨ぎ上げます。供給された加工製品からみれば半分くらいになってしまいますから、なるべく強いもののほうが、変形し難いということがいえます。変形し難ければ長期間メンテナンスフリーになります。ブリッジのメンテナンスというと馴染みがありませんが、弦の張力がここで圧力になっている為、ブリッジは徐々に変形し、反ったり曲ったりするのですが、こうして変形したものは、暫く茹でて熱いうちに変型を直し、乾燥後楽器に戻す手当てをしてやるのです。よく枯れた、目の詰んだ良材は、変型迄にその分長い時間が掛かるので、ある朝クニャリと反っていた等という事故から距離をおくことができるのですが、加工に時間が掛かり、交換にはより多額を必要とします。
 強めていうなら、これが何であれ音には差程の影響はありません。
音を左右するのは加工の技術です。分厚く重たい状態で仕上げると音量が期待出来ませんし鋭い立ち上がりや豊かな響きは得られませんが、薄くすると高価な素材でも強度は自ずと落ちます。落ちる強度をぎりぎりのところでバランスよく、長く弦を支え音を伝えられるようにするかそうでないかという問題なのです。オ−ベルト社製のデラックスだからいい音がするという訳ではありません。大体専らオーベルトの製品は入手が容易ですが、デラックスに限ってはバイオリンメーカーも工房も挙って買う為品薄に感じるという程度のことです。

 ペグの材質は、調弦というめんどうでも毎度の行いの易難を左右すると同時に楽器の寿命も左右します。柔らかくても粗い木目の材木でペグをつくると、シャフトが糸倉(ペグボックス)にあけられているペグ孔を必要以上にヤスる為、孔を早く減り広げてしまいます。拡がった孔はペグを支える摩擦力を与えるのに強い力で押し込まなければならないし、安定性も欠きますから、埋め直して新たに孔をあけなければならなくなります。しかしこの修理は最低でも数万円は掛かります。ことと次第によっては、特に当店の楽器の多くは、修理代が楽器の価格を凌ぎます。大多数のケースで、その状態になると楽器に寿命の引導が渡されてしまいます。その為専らペグは、エボニーやローズウッド、ツゲ等目の細かい堅い材木で作られることが多いのです。低額の楽器には塗りの分厚いペグが使われることが多いのですが、これはシャフトを削って孔に合わせてはいけないのです。塗りで楽器を守っている為です。買った当初はペグが長く出ているようだからといって、削って細くしてしまうと、露出したシャフトの木肌が糸倉の孔を削るようになってしまいます。こういう場合は長く使っていくとペグの軸の方が圧力で細まり深く入って調度よくなっていくもので、何も無謀に安くつけようとしているのではなく、将来性も設計されているのです。
 堅い材木だから減らないかといいますと案外そうでもないのです。実際修理等でメイプルを削るよりエボニーを削っていた方がコッチは身体が楽だったりします。つまり、エボニーやローズウッドで出来たペグは減らないのではなく、メイプルに比べ粘りがない為、糸倉の孔より先に減ってコナコナの削りカスになっていきます。自滅して楽器を守っているのです。そういう訳で消耗品です。
 ペグで楽器の音が変わることはないので、見た目の好みや扱い易さで選んで下さい。
 が、ただ、E線等特に減り易いからと、減ったペグだけ違う見た目のものと交換するのは結構ダサイでしょう。バイオリン系の楽器は、ペグを一度加工するとその孔にしかつかえなくなるので、位置毎の互換性がなくなりますから、賢い買い方は、交換する時に気に入ったペグなら余分に2本ぐらい未加工のものを用意しておくことです。4本満遍なく減らないものなので、減って引込んで困り出したら未加工のものを加工に出して替えれば楽器の表情を変えずにすみます。しかし、バラ売りされているペグは専ら高級品です。長もちさせる為に、必要以上に削らず、ペグを長くしておき後に備える例も多いですが、これも方法の一つです。

 緒止めも目立つ部品ですが、専ら軽い方がブリッジ同様音質がやさしくなります。しかし重い方が音が大きく鋭くなります。強い弦を使う時は緒止めの裏を削って軽くすると音が少しやさしくなりますが、強度が落ちる為、削るバランスというのが関門になって来ます。サイズも問題です。余り短い緒止めは音程が取り難くなったり調弦が安定しなくなったりしますが、余り長いと音が硬くなり過ぎ雑音が増えます。材質は専らこの場合は重さを左右する程度です。ファインチューナーを全ての弦につける場合等は少し短かめのものを選ぶ必要もあります。ブリッジと同じく、技術精度が可不可を決めるものです。見た目ばかりで選んで良いというものでもなく、高ければいいというものでもありません。

 普通、一番違いを目で感じられ、身体でも感じてしまい、挙げ句奏で易いか否かで結果音迄左右するのがあご当てです。装着される部分の占有面積が広いから音が悪くなる等と言われますが、これ自体で凡そ音が変わるものではないのです。むしろ、奏でる人がこれを使い易いかどうかが結局それを決めます。人の身体は千差万別で、その結果、楽器の奏で方も、こういうと正しい教えを与えている指導者には悪いのですが結局十人十色です。あご当ては、楽器のサイズ特に厚みを身体方向で変化させてしまう部品ですし、その姿形や微細な意匠の違いも人の身体は敏感に捉えます。
 
あご当て選びで肝心になることは、自分が何に慣れておく必要があるかです
 近年好まれるガルネリ型というオーバーテールピースのあご当ては、余る部分が多いので、録音等の機会が多い人にはマイクが取り付け易い為、現場的には比較的使い易くなります。ところがこの欠点は、オフセットセンターで取り付けられるあご当てに比べ厚みを増すことになる為、体格によってはいつも上向き加減で演奏を強いられることになります。違っても数ミリですが、これが大きな障壁になる場合があります。別の方法でマイクを取り付ける等講じておけば、よりしっくり来る横付けのあご当てを使うことも可能になりますから、自由度は現場と自分次第です。最近はPAを使う発表会も結構ありますから、独り善がりを実践するには少々準備が必要です。
 あご当ての高さは制限が少々あるものの調整は可能です。但し金具の孔跡が残ったりするのは致し方ないところです。ちょっと高いかもと思ったらお店で直してもらえば良いことです。最近はテールピースの上寄りにあごを乗せる方が多くなって来ているので、大きくテールピース上に掛かっているあご当てが良さそうに見えますが、どんどん楽器が分厚くなる虞れもあり、身体と相談して、またお店とも相談して吟味した方が良いと思います。
 あご当ての取付金具もいろいろいわれるところですが、角度の調整がちゃんとされていれば何でも同じです。ヒル型セパレートのクランプは、楽器の表面のニスを傷める面積が小さく、それを気にする人か、気にした方が身の為という楽器には好適です。音がどうこうなるというのは、専ら勘違いか思い込みと考えて間違いはありません。

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